例えば朝起きる時も、僕は幸せです。

     Little Happiness the Future
       朝の幸せ

「周助さん、周助さん。」

頭上で僕を起こす声が聞こえる。
これがちょっと前までなら母さんか姉さんかと思ってるところだけどそうじゃないのは声と呼び方でわかる。

「うーん。」

僕は唸って寝返りを打つ。

「うーんじゃないでしょ、今日も仕事なのに起きないと。」

本当は最初の一声でちゃんと目が冷めているんだけど、面白いから後もう少し、と眠たそうな声で言って
わざと布団に頭を引っ込めてみる。

「もう!」

頭を引っ込めると、今度はパフパフと布団から手で叩かれている感触が伝わる。
何だか小さな動物が起きない飼い主をせっついてるみたいで可愛い。
そんなことを思ってしまう僕は色々な意味でかなり重症なんだろうけど。

「周助さん!」
「起きてるよ。」
「ふみっ?!」

僕が体を起こすと、はびっくりして体を引いた。どうやらベッドの上によじ登っていたみたい。

「あ、ふみって久しぶり。」
「ひどい、起きてたのにどうして寝た振りするの?」
「ゴメンゴメン。ちょっと面白そうだったから。」

はしばらく膨れっ面をしていたけど、そんなことをしてても仕方ないと思ったのかベッドから降りる。
普通より体が小さいせいで、足が少し浮いていたのがおかしかった。

ま、とりあえずは朝御飯だね。


僕とは一緒に朝御飯を作る。
別に予めそう決めてたとかそんなことはないけど当然だよね、いい歳した男が奥さんを手伝えないなんて
そんなダサい話もないし。
そういえばと結婚する前も姉さんと母さんに言われたっけ。

『奥さんにばっか家事押し付けてるような情けない旦那になるんじゃないんわよ。』

って。元々に何もかも押し付ける気なんてなかったけど、尤もな意見だと思う。

、オムレツでいいよね?」
「うん。私、お皿出してるから。」

がよいしょ、と戸棚に手を伸ばしている間、僕は冷蔵庫から卵を出してそれをコンコンと片手で割る。
中学の時、家庭科の調理実習で英二がやってたのを真似してたんだけどやっておくもんだね。
結構便利。

「よいしょっと。」
「大丈夫?」
「うん…って、キャアッ!」
「!!」

がよろけたので僕は素早く支えた。

「ご、ごめんなさい。周助さん、大丈夫?」

自分の方が危なかったのに僕の心配をしてくれるなんて、ってホントいい奥さんだよね。

「僕は何ともないよ、それより早く低めの棚を買わないといけないね。」
「周助さん、卵…」
「あっ。」


そんな軽いハプニングもたまに交えながら僕とは向かい合って朝御飯にする。

「卵、ちょっと焦げちゃったね。」
「大丈夫、きっとおいしいよ。」
「だといいんだけど。」

僕は言って、自分の作ったオムレツを口に入れた。うん、確かに我ながら悪くないかも。
やっぱり焦げた味も混じってるけど、何故だろう、あんまり気にならない。
と一緒に食べてるからかな。

「なぁに、私の顔、何か変?」
「いいや。」

僕は言って、ちょっとばかしクスクスと笑った。
は不思議そうな顔をするけどそれ以上何も言わないで、ミルクをすする。

今度はパンをかじりながら僕はふと窓に目をやる。
今日は天気が良くて入ってくる日差しが気持ちいい。

「今日はいい天気だね。」
「ホント、すっごく爽やか。何かいいことあるかもね。」
「そりゃ困ったなぁ。」

僕の言葉にが首を傾げる。

「どうして?」
「だって、今だって幸せなのにこれ以上いいことがあったらバチが当たりそうじゃない?」

途端、は真っ赤になってミルクの入ったカップにそのまま顔を突っ込んじゃいそうな勢いだった。

「もうっ、周助さんたら恥ずかしいことばっかり言うんだから!」
「クスクス、だって本当にそう思うもの。」
「知らない、知らない。」

は言って、僕が取ろうとしていた林檎ジャムの瓶をぐいっと押し付けた。


そんな朝御飯の時間が済むと、僕は仕事に出かける。

「じゃあ、僕先行くね。」
「いってらっしゃい、気をつけて。」

言って笑ってくれるを見ると、こっちも笑みがこぼれそうでしょうがない。
やっぱり重症かな。学生の頃も仲間に散々からかわれたけど。
(その最右翼が英二だったのは言うまでもない)

「いってきまーす。」

僕は言って、玄関を出るとアパートの階段を駆け降りた。
外に出てしばらく歩いてから、ふと後ろを振り返る。

そしたら上からがこっちに向かって手を振ってるのが見えた。
僕は笑って手を振り返すと、駅に向かった。

朝の幸せ 終わり。



作者の後書き(戯言とも言う)

猫商人に突っ込まれてやっと更新したなんて、阿呆にも程がある…。
ちなみに私は右利きの癖に卵を左手だけで割ります。(誰も聞いてへん)


2005/02/04


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